「状態としましては、今後意識の回復を期待することは、極めて難しいという――」
太一は最後まで聞く気になれなかった。
なぜこんなことになるのだ。
何もかもが理不尽なことのように思えた。
ふと祖父の方に目をやると、昨日と変わらぬチューブだらけの姿があるだけだった。
太一はこれらを全て取っ払ってやりたい気持ちに駆られた。
あんなによく笑っていたじいちゃん。
どこへ行くにも一緒だったじいちゃん。
思い出す分だけ胸が詰まってくる。
これ以上は堪え切れぬ様子で、太一は部屋を駆け出て行った。
「太一…!」
後ろに響く母の声を振り切り、太一は病院を後にした。
歩いて家に帰るにはあまりにも遠すぎる。
太一はあてどもなく近くにある公園へと歩いた。
ベンチに腰を下ろすと同時に、熱く頬を伝うものがあった。
張り詰めていたものが急に溢れだしたのだ。
太一は戸惑いながらも、その場でじっと身を震わせていた。
「…櫛森くん?」
声の方を向くと、そこには水野がいた。
「どうしたの…?」
太一は声を出すことが出来ずただ俯いていた。
「…………」
水野は物憂げな表情で太一を見守っていた。
そして口を開く。
「何か悲しいことがあったんやろうね…私も、その…気持ち分かるよ」
水野の様子がいつもと違うことで気になりはしたが、太一は顔を上げなかった。
「私さっきまであの病院にいたんやけど…なんかもう、辛すぎて…」
水野の声が弱々しくもつれる。
空には夕暮れが染まっていた。
太一ははっとして少し水野に顔を向けかけたが、やはりそれだけだった。
「ごめん…櫛森くんも辛いんやもんね。だから泣いてたんやろうし…」
いつもは見せない水野の弱々しさが太一の心を揺らした。
「…慰めたげようか?その…何て言ったらいいんかな…私のこと、好きにしてもいいよ」
太一の胸は大きく波打った。それと同時に憤怒が込み上げてきた。
「それはちゃうやろ!!」
言い様のない複雑な気持ちに駆られ、太一は水野と公園を後にした。
続く