太一は混乱していた。
祖父のこと、受験のこと、そして水野のこと…
そんな様々な要素が彼の思考をかき乱していたのだ。
「太一!」
道路脇をとぼとぼ歩いていると母が車を寄せていた。
「さぁ帰るよ」
車の中では祖母の話をした。
夕食は祖母が振る舞ってくれるのだという。
母は努めて明るく話をした。
「ばあちゃんの料理はほんまおいしいもんなぁ。太一、手伝いせなあかんで」
時折見せる母の笑顔に、太一はいちいち詮索を入れないことにした。
「そやな!あ〜めっちゃお腹空いたわ」
祖母の家は妙にだだっ広い感じがした。
人が一人いないだけでこれほどまでに印象が変わるものなのだ。
それはひとえに、祖父の存在の大きさを表しているのだろう。
「まぁいらっしゃい!よく来たねぇ」
祖母がにっこり笑うと顔中に幸せそうな皺が寄った。
その表情は母にそっくりで、どことなく祖父にも似ていた。
自分もいつかはこういう顔が出来ればいいのにな――
太一はふとそう思った。
夕食後、太一は驚くこととなった。
太一の知らない祖父の写真、または祖父にまつわる話。
そういったものを惜しみ無く祖母が披露してくれたのである。
「うっわ!じいちゃんの髪が黒いっ」
「そやろ。まゆ毛もきりっとして、いかにも頑固者さね」
祖母は終始笑顔だったような気がする。
不思議な感覚だった。
太一は祖父が大好きで、尊敬している。
ちょっとした仕種や滑稽な癖もよく知っている。
しかし、知らないことのほうがはるかに多かったのだ。
白黒の証明写真のようなものに、男盛りの頃の祖父が写っている。
驚きを隠せないような、思わず吹き出してしまうような、そしてなぜかしんみりしてしまうような、様々な感覚が太一を包んだ。
「じいちゃんのことがだーいすきや」
祖母は素敵な笑顔を浮かべながらいった。
そして次第に太一の中である考えが芽生えはじめた。
続く