「本当に良いこねぇ、則子さんは」
「あぁ、今時あんな子はいないよ。明は良い子に巡り合えてラッキーだな」
「本当。いっそのこと明のお嫁さんになってくれないかしら」
「はっはっはっ。それは少し早すぎるぞ。しかし、前のよりずっと良いな」
「そうねぇ。半年前までに付き合っていたあの子、えーっと、何だったかしら。名前が出てこないわ。あなた、分かる?」
「いいや、覚えてないな。顔は薄ぼんやり覚えているんだが……」
「私もよ。あの子、明の話からさっするに大層折り目正しい子だと思っていたのに、なんてことはない。ただ顔だけって感じで。いかにも家のお金が目当てって――」
「まぁまぁ、もう良いじゃないか」
「そうね。もう二度とあの子に会うことはないし――」
なるほど、と私は思った。どうやらあの話は本当らしい。踵(きびす)を返し、彼の部屋へ戻る前に頭の中を整理した。
予備校に通い始めた直後に始まった夏期講習。そこで偶然同じ席になり意気投合したY美と昼休みに弁当を食べていると、彼が教室に入ってきた。
隣には彼の友人が二、三人いたが目に入らなかった。
―続く―