34歳に成る男は、静かな夕暮れの一時を窓越しに、次第に暗く成る山々の緑を見つめていた。
男は、未だ独り暮らしなので、今は時間や家族に振り回される事は無いのだ。
真っ赤に燃えた太陽が泉ヶ岳に沈んだ。
「たいぶ、太陽の沈む位置が南に成ったな」
崖淵に建つ郊外の一軒家。
ふと、後ろに、嫌な気配を感じたのだった。
「誰だ!」
振り返ると、誰も居ない。
「疲れかなぁ、確かに誰か居た感じがしたんだかなぁ」
なぁに、私は居ますよ此処に…
「えっ!」
男は、廻りを、恐々見渡したが、誰も見えない。
「貴方には見えないんです…
私は、貴方の本心其のものなんですから」
私の本心って…
私は、偽っている訳では無いし、なんなんだろうか。
男の答えに、本心成る者が答えた。
「結婚したら良いよ」
そんなもんかな。
そんな、感じがしたのだった。
誰か、久しい友人に相談しても、何か、答えを出してくれても、その気に成っただろうか
男は、沈んだ夕日の後の暗闇に目をやり考えた。
自分で出せない答えを自分の心が教えてくれんだ。
感謝の気持ちで、夜の剣道の稽古に向かい、助教の女性に、夕食の誘いを入れてみた。
彼女の顔は、薔薇の様な微笑みを浮かべた。
人間には、不思議な力が備わって居るな、とチョット楽しい気分に成った。