ヴェルサイユ宮殿を再現した、少なくとも、王国側はそう主張している―大広間も、そう言った区画の一つだった。 確かに、けばけばしさに置いては、オリジナル以上だったろう。 さんざめく笑い声よりも、宮廷陰謀や、骨肉の悲劇の舞台になった方が、余程似合いそうな場所だった。 事もあろうに、星系合衆国は、何が楽しいのか、軍幹部や国賓貴顕を招待して、晩餐会の類を催す時には、決まってこの大広間を使用していた。 『共和国のお客人は、何か独創的な見解をお持ちですかな』 星系合衆国とは別系統の国々も、武官・外交官・従軍記者・慈善団体等、多彩な人材を送り込んで来た。 ある者は情報収集の為、ある者は外交宣伝の為、保身を図る者、利益を狙う者、目的は国様々だったが、『取りあえず二人』送って来た共和国宙邦は、この世紀の大遠征に、最も無関心なくせに、関与した形だけを取って、後々これを口実に、散々利用してやろうと、今の内唾だけ付けといたんだと、専らの評判であった。 共和国の代表、在星系合衆国・大使館付・無任所予備員にして、今や、観戦武官首席として国の重責を荷なっている、リク=ウル=カルンダハラの、今日成し遂げた仕事はと言えば、この十何回目かの、作戦会議を兼ねた晩餐会の中で、『王朝風作法』を知らなかったが為に、手洗い用のボ―ルに入った水を飲んでしまい、三個の卵を台無しにしてしまった事だった。 それでも、失笑や蔑視を買わないのは、彼の出身母体が、ある意味合衆国をも上回る、軍事大国で、妙な恐れを抱かれているらしく、その裏返しか、リクはこの擬似宮廷社会の中で、それなりに丁重な扱いは受けていた。 この国の人種的特徴を引き継いでいて、黒髪黒目・艶の良い肌色の皮膚・秀麗な顔立ちの青年ではある。 厳密に言えば、青年ですらない。 この年一八。若くして活躍する人材は、あまたいるにしても、この時代、人類の平均寿命は、一三0才の域にまで達している。 地球時代の感覚から言えば、小学生が国を代表して、戦場にやって来た様な者だ。 こんな人を食った事をしでかしたのが、かの大国でなかったならば、外交問題に発展していただろう。