「いくら、一哉の婚約者やて、また、明日から仕事やろうに。今日はほんま、助かったわ。」母親は箪笥の一番上のひきだしから、茶封筒を取り出し恵美子の前に置いた。
「お母さん!」思わず大きな声をだした。
「私はお金のために、お葬式を手伝った訳ではないのです。」母親はうんうんと頷いて。「もう、一哉のことは忘れて欲しいんです。ほんま、お金で恋人をわすれって。酷い事やけど。」この時、初めて恵美子は涙が頬に伝った。全身の力が抜け恵美子の顔が真っ赤になるまで泣いた。
「ほんまに、エミちゃんウチはこんなことしたないんよ、でも、通夜でも告別式でも、涙一つ見せんで気丈に振る舞ってくれて。ほんま、ウチ嬉しかったんよ。元気も出た。お金は一哉との事を精算するためやない。一哉は一生、ウチの心に残る、エミちゃんの気持ちも残る、それでええねん。」母親は涙を頬を伝った。
「お母さん。あのね、彼と付き合っていた時期は一年位だったけどケンカもしたけどいい思いで死か残ってないの。私はそれだけで充分なの。だからね。それだけで何もいらないのよ。だから、お母さんも、他人行儀なこと言わないでね。」恵美子は手をついて深々と頭を下げた。母親は出した、茶封筒を引っ込め、お茶を一口飲んだ。恵美子は安心したように自分もお茶を飲んだ。
「今日はゆっくり休んで下さいな。ウチもゆっくり休むさかい。」恵美子はうなづいて、一礼した。一哉は死んでも時は流れる。私はどうして生きていこうか途方に暮れていた。