‥‥本さん!‥‥湯本さん!!
遠くの方から声がする。
(‥美月)
耳元から声がする。顔を上げると周りの目がこちらを見ている。
「ほら、起きて!じゃあ次のところから読んで」
後ろを振り向いた裕美が私の教科書を指差す。
「‥骨転移の発生機序は全身循環器系を介する‥‥」
斜め右下に顔を近づける。
(ありがと!助かった。)(美月が寝てるなんてびっくりしたよ。)
(昨日寝たの遅くて‥。)(そっか‥あんまり頑張り過ぎないでよっ?‥ところでさ‥)
襟元まで伸びたストレートの黒髪。いつもマスカラしかしてない顔は色っぽいささえ感じる。白のカーデに淡い緑のインナーの服は白い肌にとても合っている。
(‥ちょっと聞いてる?)
(ごめん、ぼーっとしてた。)
(まったくー。ねぇ、昨日のメールにあった相談したいことって‥?)
(‥‥うーん‥。
裕美、放課後時間ある?はと時計行きたい。)
(ん、わかった。じゃあ6時にはと時計で!)
篠田裕美はこの学校入ってから意気投合した私の一番の親友だ。自分の意見をしっかり持っていて、皆から頼りにされる存在にある。私はいつも相談事があると彼女に聞いてもらっている。同い年なのに、‥私とは大違いだ。
看護の専門学校に通い始めてから2年。一日があっという間に過ぎていく生活は今も変わらない。
‥‥友達は沢山いるけど、恋人はいない。
‥この先、何もかも捨てていいくらい好きな誰かと巡り会うことなんて‥‥あるのかな。
ねぇ‥‥
私、まだ忘れてないよ‥?