深夜、ある家に強盗が入った。
殺されかけた夫婦の妻が、甲高い悲鳴をあげた。
その瞬間、玄関から待ってましたとばかりに、警察が入ってきた。
奇跡的に、盗られた物も殺された人もゼロだった。
警察は、「署長の娘の予言だった」と言う―\r
タロットの奇跡 1
「お前お手柄だったねぇ」
俺は隣にいる幼馴染を見下ろしながら、雪の塊を蹴った。
占いの本を読みながら、彼女は淡々と答える。
「手柄などではありません。仮にも警察署長の娘なのですから、今日事件があるかくらい占うのは当たり前です」
俺の幼馴染は、先日の強盗事件を予見し見事解決させた、タロット占いの天才・桜鏡である。
警察署長の娘で、俺達が通っている学園の贔屓は相当のもの。
もっとも、学園は俺の贔屓もすごいのだが。
「つーかさ、歩きながら読むなよ。通学中なんだからさ」
「別にどこで本を読もうと、私の勝手じゃないですか。」
「あいっかわらず冷たいのな、お前って」
「ほっといてください」
この女いつか俺の手で地獄に送ってやる、と思うのだが、父は警察署長。
取り締まり方が尋常じゃないだろう。
こんなムカつく女なのに、同性からも異性からも人気ときてやがる。
そんな人気っぷりなのに、友達は俺1人しかいない。
贅沢なヤツ、そう思いながら、俺は鏡の頭をぐしゃっと撫でた。
「なんですか」
「別に」
俺は学園の門を前にして、ふぅとため息をついた。
その時、鏡がヤな予感を感じているのも知らずに。