女性はあるビルの屋上にいた。
下をじっと見、やつれた顔をしていた。
本来は二十代だろうがその顔は四十代の疲れきったそれだった。
「死にたいのかい?」
黒い服を身にまとって帽子を深くかぶった少年は問う。
女性は突然の声に後ろを向く。
問われた女性は悲しそうに微笑し、頷く。
「死神さん? なら連れて行って」
女性は少年に言う。
死神と呼ばれた少年は帽子をさらに深くかぶる。
口以外全く見えない。
「僕は奪うことしかできない。与えることはできないんだ」
静かにそう、呟いた。
「なぜ? 命を絶つことは奪うことじゃないの?」
死神は何も言わない。
「私はもう、命しか残ってないの! あの人も失って……、もう、何も要らない。全て無くしてしまいたいの」
女性は泣き叫ぶ。
「僕は奪うことしかできない。君の死にたいという願望を奪うよ。そのかわり君を不幸にするために……」
そう、呟き少年は消える。
女性は気を失った。
ふと、女性は目覚めた。
女性がいるのは病院。
「ここは?」
「あなたはマンションから飛び降りたんですよ。あなたはもう、一人の命だじゃないんですからこんなことはやめてください!」
医者、のような人が横から叫ぶ。
ぼーっとした目線で医者を見つめる女性。
「え?」
「おめでとうございます。二ヶ月ですよ」
女性は分からない、という顔をし、医者を見つめる。
「お子さんですよ。奇跡的に母子共に助かりました」
しばらくきょとんとしていたが、女性の頬には自然と涙が伝った。