そいつが好きなら
奪えよ───
酒に逃げ溺れている聖夜。今まで見せた事の無い弱った姿。
目の前の朱斐に泣き付く程、不安定で傷ついている──
「……聖夜、何が理由で、何でそうなったのか私には分からないし、聞かない。けど……けどね──」
朱斐が手を伸ばし、聖夜の頬に触れる。
目を細め、哀しみを浮かべた顔を微笑ませる。
「聖夜が……桃実さんの事をすごく愛してたの知ってる。私は分かる。聖夜がどれだけ今辛いのか──」
黒峯に拒絶された時、私は辛くて悲しくて離れて行く黒峯を追い掛ける勇気も無かった。それを──とても後悔している。
聖夜も同じ。
桃実さんを追い掛ける事が出来ないから苦しんでる。
「大丈夫……大丈夫よ。聖夜」
「ッ──ゴメ…ン。今…だけ」
朱斐は、聖夜を包むように抱き締める。
辛さに押し潰されそうな聖夜を、朱斐は黙って抱き締め、傍にいる。
奪う事なんて出来ない──
私は桃実さんを知ってる──
聖夜がどれだけ桃実さんを想ってるか一番近くで見てきた──
黒峯と同じ間違いはしない──
黒峯は私の気持ちを知ったせいで放れて行った──
聖夜には一生言わない。ただ──せめて傍にはいたい。いて欲しい。だから──
「──……桃実さんを……忘れなくていい。聖夜は聖夜だから──桃実さんを愛し続ければいい。いつか──桃実さんにも届く事を私は祈るから」
月夜。
ソファーで眠りについた聖夜。朱斐は傍らで寝顔を見つめる。
月明かり。
窓の向こうに見える月が、闇の中で輝き灯を与える。
その光は闇を包む暖かい癒し。
「──……桃実さんと聖夜──羨ましかった。けど私の理想で……ずっと変わらないと思っていたのに──」
朱斐が満月を見上げる。闇の中の月は闇と共に闇の中で生きている。ずっと変わらず──
「人は──人は変わり続ける。私は分からない。私は……本当に聖夜が好きなのかしら? それとも黒峯がいないから今、傍にいてくれる聖夜を必要としているのかしら?」
目を瞑り、眉をひそめうつ向く。
「──……白藍……ごめんなさい。私は──あなたにふさわしく無い」
分からない
分からないけど…
私は──