雪の華26

龍王  2006-11-16投稿
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そいつが好きなら
奪えよ───



 酒に逃げ溺れている聖夜。今まで見せた事の無い弱った姿。
 目の前の朱斐に泣き付く程、不安定で傷ついている──


「……聖夜、何が理由で、何でそうなったのか私には分からないし、聞かない。けど……けどね──」

 朱斐が手を伸ばし、聖夜の頬に触れる。
 目を細め、哀しみを浮かべた顔を微笑ませる。

「聖夜が……桃実さんの事をすごく愛してたの知ってる。私は分かる。聖夜がどれだけ今辛いのか──」

 黒峯に拒絶された時、私は辛くて悲しくて離れて行く黒峯を追い掛ける勇気も無かった。それを──とても後悔している。
 聖夜も同じ。
 桃実さんを追い掛ける事が出来ないから苦しんでる。

「大丈夫……大丈夫よ。聖夜」
「ッ──ゴメ…ン。今…だけ」

 朱斐は、聖夜を包むように抱き締める。
 辛さに押し潰されそうな聖夜を、朱斐は黙って抱き締め、傍にいる。


 奪う事なんて出来ない──
 私は桃実さんを知ってる──
 聖夜がどれだけ桃実さんを想ってるか一番近くで見てきた──

 黒峯と同じ間違いはしない──
 黒峯は私の気持ちを知ったせいで放れて行った──

 聖夜には一生言わない。ただ──せめて傍にはいたい。いて欲しい。だから──


「──……桃実さんを……忘れなくていい。聖夜は聖夜だから──桃実さんを愛し続ければいい。いつか──桃実さんにも届く事を私は祈るから」







 月夜。
 ソファーで眠りについた聖夜。朱斐は傍らで寝顔を見つめる。
 月明かり。
 窓の向こうに見える月が、闇の中で輝き灯を与える。
 その光は闇を包む暖かい癒し。

「──……桃実さんと聖夜──羨ましかった。けど私の理想で……ずっと変わらないと思っていたのに──」

 朱斐が満月を見上げる。闇の中の月は闇と共に闇の中で生きている。ずっと変わらず──

「人は──人は変わり続ける。私は分からない。私は……本当に聖夜が好きなのかしら? それとも黒峯がいないから今、傍にいてくれる聖夜を必要としているのかしら?」

 目を瞑り、眉をひそめうつ向く。

「──……白藍……ごめんなさい。私は──あなたにふさわしく無い」



分からない
分からないけど…

私は──



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