夜のセントラル
どことなく似かよった人々の中を避けるように歩く男がいる。
その歩みはまるで計算されたかのように美しく、歩いた軌跡には空気の流れが見えるといった感じである。
ただし彼の身なりは汚かった。背は高くやせ細っていて、1月の末だというのに彼はボロ雑巾のようなシャツ1枚とスボンというジャンルに分けるには難しい布切れのようなものを腰にまとっていた。
そしてあたまにはなぜかターバンを巻いている。ターバンと言っても普段浮かべるような模範的なものではなく、包帯のような代物だった。
そんな身なりをしていても、彼には生まれもった神秘に満ちた顔と澄んだ海のような瞳でとても好感がもてるのだ。
彼の名前は「ウウ」たぶんそれが今の名前なのだろう。ウウはセントラルの西のはずれの川の畔で小さな診療所を羊たちと営んでいる。
実際は羊小屋といっても過言ではない小ささとボロさなので、大抵の場合みんなその存在に気づかない。
まぁ気づいたところで薬の代わりに毛の入った羊のミルクを飲まされるようなヤブ医者の小屋になど近寄りたくもないのだろうが。
つづく