神戸に来て早一ヶ月。
華波は日々の生活の中で、夏生のことを忘れたことはなかった。
女子寮はそれなりに楽しかったし、大学生活も悪くはない。
毎日会っていた人を見かけなくなる。
そんな当たり前の状況が、彼女の心を締め付けた。
夏生は元気にしているのだろうか。
夏生は東京の大学に行った。大都会でちゃんと暮らしていけてるのだろうか?
一人暮し…。
華波はしたことがなかった。どんな感じなのだろう?
四月の終わり、彼女は決断した。
わずかなお金を握りしめて、夜行バスの切符を買いに行った。
「もしもし。」
か細くなる声。
「おぅ、元気か?」
暗闇に響く優しい声。
電話でしか繋げない気持ちが辛かった。
「本当か!?じゃあ、出ておいで!!」
明るくなる声。
島から出て、ずっと聞いてなかった方言のぬくもり。夏生の声に抱きしめられて、甘やかな眠りにつく瞬間の幸せ。
一週間後には会える。
華波はそれだけで、涙が止まらなかった。