【絶対に逢いたい時にすら逢えない…それが恋愛においてどれだけお互いを成長させるのか、傷を残すのか、それは経験してみなければ分からない】
東京と大阪の遠距離恋愛といってもデートの場所はいつも彼女のいる大阪だった。
もちろんお互いに社会人であり、バックグラウンドも収入も違う。育ってきた環境も、何から何まで違うのだ。余裕のある方が歩み寄らなければ続かない。
私は一人暮らしで余裕とまではいかないものの、そこそこの収入もある。が、彼女は実家暮らしで家計も支えなければならないうえ、職場でもバイトの扱いだった。
そのため、彼女はいつも遠慮する。自分なんかの為にいつもごめんな、と。そのコトバが少し淋しくてチクりと胸に刺さっていた。
友人らはいつも彼女を東京に呼んだらいいと言うが、それはできなかった。
金銭的な点、親が厳しいという点。あとひとつの理由がネックだった。
何度もデートを重ね私達はより親密な関係になれたと・・思っていた。けれど、二ヶ月、三ヶ月と経とうが私達の一緒に過ごした時間は普通のカップルの十分の一程度にもならないのだ。
だから私はいつも彼女を気遣い、自分の優しさの全てを彼女に遠い場所からでも届くように頑張った。
あるとき、彼女が元彼からよりを戻したいと言われたと聞いた時、私は絶望的なまでに無力感と距離を感じてしまった。
彼女は元彼とは三年同棲していたと言うのは聞いていたんだ。喧嘩別れしたわけでもなく切れた関係。
彼女の心の奥にまだ元彼がいることは気付いていた。だけど、どれだけ一緒に過ごしても、元彼は一度は彼女の手を離したのだと、自分に言い聞かせるように私は彼女に揺れないで自分だけを見ていてほしいと電話で伝えることしかできなかった。
側にいられたら…抱き締めて彼女の心ごと揺れないように支えてあげられる。でも、この距離を走って駆け付けるという訳にもいかなかった。
どうしても淋しい時に相手の側についていてあげること。そんな当たり前のことが私達にはできない。
いつしかお互い『逢いたいね』という口癖を我慢するようになっていた。…そして会いたい時はいつも私が大阪に行く。
彼女が東京に来たら…帰路の一人きりの淋しさを彼女に味わわせてしまうから…いつも東京への帰り道は私が彼女の分まで涙をこらえた。