しばらく鍔競り合いの膠着状態が続いていたが、力を抜きフッと後ろにゼノスが倒れ、均衡が崩れる。
急に手応えが無くなり前のめりにバランスを崩したクロウの腕を掴み自分に引きつけ、右足を腹部に当てながら後ろに投げ飛ばす。
ドーン!
よく育った大きな木の幹に背中から勢いよくぶつかり、
「ガッ!」
肺の中の空気を吐き出す。
間髪を入れずゼノスが襲いかかる。大剣を持ち上げ防ぐが、続く激しい連撃が反撃を許さない。
一瞬の間をつき、横に飛び剣撃の嵐を抜ける。
それをゼノスは追いかける。
体勢を整え、迎え撃つクロウ。
闇夜にきらめく黒の閃光。それを蛇の牙が弾き、さらにゼノスの血を求めパッと鮮血を飛び散らせる。
「クッ」
ゼノスの顔が苦痛に歪むが、攻撃の手が緩むことはない。一度は弾かれた黒が再びクロウに向かう。飛び退くが間に合わずに赤をまき散らす。
睨み合う両者。
それぞれが深手を負いながらも構えを解かず、萎えることのない闘気。
静寂。
それは一瞬。
ほぼ同時に走り、間合いの長い大剣を持つクロウが突く。
ゼノスは半身に躱すが、逃すまいとすかさず払いに転じるクロウ。それを横にした剣の腹で受けとめる。
急な軌道の変化で軽い一撃となった払いではゼノスの突っ込みを止めることは出来ず接近を許してしまう。剣の腹で受けとめた格好のまま、大剣の刃の上を滑らせゼノスは走る。
鞘に剣を納めながら打撃が届くところまで距離を詰めたゼノスは分厚い腹筋に肘を打ち込む。
首に手をかけ、強引に下方向に顔を向け膝を叩き込む。
意識が飛びそうになりながらも、クロウが放ったフックはゼノスを捕らえる。
宙を飛び一回転した後、着地する。
間を置かずに、剣を抜きつつ駆け出すゼノス。
意識を取り戻すのに約一秒。
目の前にはゼノス。
行動に移るのは一瞬。
蛇が動く。
「ガハッ!」
血塊を吐き出し、背中から突き出た金属の塊。
突き刺した蛇の牙。
貫いたゼノスの一撃。
荒い息で、
「まさか、俺が負けるとはな」
静かに剣を引き抜く。抜いたところから血が溢れ、もう一度血塊を地面にぶつける。
「まぁ、いい線いってた方だ」
と、意地悪く。
「言ってろ」
苦笑いを浮かべ、体を支える為に地面に突き刺した大剣から手を放し、『死をもたらす蛇』は地面に倒れた。