月のない夜だった。
春の穏やかな風が、まだ冬のにおいを残す夜の闇を、そっと撫でていった。その風を避けるがごとく、闇の深いところに彼らは潜んでいた。切れかけた電球がしがみつく電信柱の後ろ、もさもさと茂る植え込みの中、乗り捨てられた車の下、、、影という影の中で、彼らは息を殺して潜んでいた。
そもそも彼らは息をするのだろうか。彼らは本当に存在しているのだろうか。そう疑ってしまうほど、彼らの気配は感じることができない。
彼らは待っていた。影に潜みつつ、その合図を待っていた・・・。