僕は、透明な水を飲む。身体に染みていく感覚。無味無臭な液体は罪悪感を消してくれる。自分を助けられなかった俺。家族という名の牢獄から、脱け出せない僕。トラウマの鍵は、すべて捨てちゃったよ。生きることを放棄してしまった幼い僕。やり直しは、決して出来ないことを知らなかったんだ。扉は錆びついているよ。青白い錆びは、長い雨が降ったからだね。赤く温かい光はもう見ることは、出来ないかもしれないね。それでも扉を押し続ける細長い腕。 一人だと重く、そして独特の冷たい感覚で身体が震える。 緑の細長い木が3本、薄灯りの中を色を変えながらうごめいている。紫、赤、黒、狂気的な色ばかりに。 正確に、人間の匂いが解るのは人だけなのに。今は、もういなくなっちゃったのかな。 五感は、扉の向こう側に、置いて来ちゃったね。そして、私は透けた向こう側をみながら水を飲むんだ。何度でも。