すると帝は、伊織姫以上に動揺を隠しきれない様子で、「では…つまりお前…いや、貴方が宗劉兄上だと…?そして…右大臣の策謀で結果的には私が兄上の帝の座を奪ったと…!?それでは今夜は復讐のために……私から『宗劉』を奪うために…私をここに呼び出したのですか!?左大臣家の姫を餌として使ってまで!」と叫びました。
それを聞いた螢雪──もとい宗劉は、顔色一つ変えず、淡々とした口調でこう話しました。
「そう昂奮するな、劉嘉。…これは復讐などではない。ただ、本来の姿を取り戻そうとしているだけだ。まず忌々しい右大臣家を根絶やしにし、その後は私が帝の座に戻り、お前は宗劉を辞め、劉嘉に戻る。そして私が、この手で全く新しい国を創るのだ。…出来るなら姫、貴女と共に。」
そして宗劉は僅かに目を伏せると、「…だから伊織姫、貴女には真実を教えておこう。…というか、貴女には知る権利がある。私と貴女が出会う以前から始まっていた計画の真実を…──。」と呟きました。
呟いてから宗劉は、驚きっぱなしで言葉も出ない様子の姫に、申し訳なさげに向き直り、姿勢を正すと、「…では伊織姫、一から包み隠さず話そう。…劉嘉、お前も聞くがよい。そうだな、まず…私が東宮の座を追放されて以降の話から始めよう。」と言い、床に置かれた短刀に視線を移すと、ゆっくりと話はじめました。
「…──忘れもしない10年前、私は右大臣家の策謀により東宮の座を追放された。しかも右大臣家は私を追放しただけでは安心出来なかったのか、刺客まで送り込んできた。もちろん、東宮としての権力を失った私に、護衛などいるはずもない。だから私は自分の身を護るため、この短刀を…誇り高き双龍華を…幾度も刺客の血で染めた。」
そこまで話すと、宗劉は短刀を手に取り、鞘に彫られた双龍華を慈しむように撫で、そしてその様子を見た帝は「兄上…。」と呟くと、バツが悪そうにうつむきました。
しばらくして宗劉は短刀を撫でる手を止め、「しかし…誰一人味方がいないわけではなかった。…ある者は私が東宮でなくなってからも、ずっと忠誠を誓い続けてくれ、しかもほとんどの刺客を始末してくれた。…なぁ、私はお前に心から感謝している。だからそんなところに隠れていないで出てくるんだ。大丈夫…劉嘉ならば解ってくれる。さあ…。」と、灯りの届かない漆黒の闇に向かって話しかけたのでした…。