喪があけ、私は『さよ』と『ちよ』に会いに行った。長屋に着くと其処には、他の者が住んでいた。喪にふしていた間に平助、さよとちよの行方が判らなくなっていたのだった。
長屋の者は、私を見ると長屋に戻り顔を出さなくなった。何か、知っている気がしてならない…仕方なく、屋敷に戻る事にした。
私の幸せを奪った者が、誰かは直ぐに知れる事になった。
真の事として確信が持てない以上、腹を探るしか出来なかった。私は勤めが終わると平助達を探した。一月半を費やし、私は平助を見つける事が出来た。
「旦那様…」
平助の身なりは乞食同然に成り下がり、痩せて屋敷に居た頃の平助ではなかった。
平助は私の顔を見ると、泣きながら何度も謝り、土下座をして地べたに顔を擦り付けていた。
「平助、何があった?」
私は平助に問い掛けをしたが、平助は土下座を止めずに謝るばかりだった。そんな平助を棄てて行く事は出来ず、母が生前住んでいた寮に連れて行く事にした。そこは、妻の『幸江』が一番嫌っていた場所だった。其処に連れて行けば、平助は見つかる事はないだろう。
寮には、一人の男が住んでいる。母が生前の時に身の回りの世話をし、母を慕って仕えていた者だ。
「龍之介様!よくぞ、御出でました」
男は私の顔を見ると駆け寄り、深くお辞儀をした。連れている老人が誰か、最初は判らなかったが、平助と気付き喜んでいた。事情を話し、平助の面倒を見て欲しいと頼んだ。男は私の頼み事を引き受けてくれた。男の名は『弥一』と言う、父の代から屋敷に仕えていた奉公人である。