先生の姿が小さくなっていく―\r
矢田が未だにあたしの手をつないで
グイグイ引っ張っている。意識が翻弄して
自分が何してるかよく分からなかった。
ようやく我に返ったときにはすでに
机に座っていた。あたしどうやって上靴
履いたんだろう…。ボォッとしていると
携帯にメールが受信されていた。
―紅葉へ―\r
昼休みに、保健室に
来い。話したい事がある。
―拓真―\r
あたしはわざと見なかった事にした。
放課後。先生に呼び止められた。
「…なんで来なかった?」
「なんのこと?」
あたしは意味が分からないという顔を
してみたが先生にはお見通しだった。
「朝あれはなんだ?なんで矢田と・・・。」
「…あれは只、遅刻しそうだったから手を
引っ張ってくれただけ。」
「じゃあなんで手を解かなかった?」
「いきなりで忘れてたのよ!」
先生とあたしは一瞬即発しそうだった。
お互い一歩も引かず一歩も譲らず…。
そこにタイミング悪く矢田が来た。矢田は
焦る様子も見せずあたし達の方に真っ直ぐ
歩いてきた。かと思うと横切っていた。
「…矢田君。」
先生が矢田を呼び止めた。矢田は振り返り
「何ですか?先生。」
と答えた。あたしには『先生』という言葉を強調したように聞こえた。
「異性と交際をするのはいいが、学校では
あんまり控えてくれるかな?」
あたしは先生を睨んだ。先生はあたしに目もくれず矢田に話し続けた。
「君は成績もいいらしいね?…こういう子と付き合うのは僕としてはあまり…。」
先生の言った事が信じれなかった。
「先生は分かってないですね。コイツは
そこらへんにいる女とは違いますよ。アンタみたいな男と付き合ってるのが俺には
分からないね。」
次の瞬間、先生の右手が矢田の顔面を
殴っているのが見えた。