「やれやれ。無茶をする」
苦笑し、レグナが炎を吐いた。
今度は騎士団の空中兵器が黒い煙を上げて谷底へと落ちていく。
「助けて…くれたんですね」
マナの声はまた震えていた。無理もない。
「あんただって、助けてくれたじゃないか」お互い様だと答えると、マナは小さく微笑んだ。間近に見る赤い瞳に、また心臓が跳ね上がるのを感じた。
アインはあわてて目を逸らし、言葉を捜した。「これから、どうするかだけど…」
アインはちらりと後ろを振り返った。幸いにも追ってくる空中兵器はない。
「私は封印の地に向かわなければなりません」
「その封印地って、もしかして…」
「この渓谷地帯の東の果てに」
アインは堂目した。自分にとって、唯一、故郷と呼べる場所が騎士団の五つある封印の地の一カ所になっていたとは。同時に、納得もした。ジークの追跡はあまりにも早かった。
追ってくるだけならまだしも、あれだけの兵力を揃えて大神殿から移動するのは並大抵のことではない。が、
この近くに封印の地という拠点があるなら話は別である。
さらに、封印の塔の名を聞いて驚愕した。
「神水の塔。私の目的地はそこです」
毒の清水を飲まされたとき、ジークは確かに言った。
神水の塔から取り寄せた、と。
「しかし…なぜ神水の塔に?」
「私は塔の封印を解き放ちます。」
「封印を解くというのか…」
マナは静かに頷く。
「私の目的はそこにあります。」
「五つの封印を解いてしまったら、世界は崩壊すると聞いた。」
「かもしれません…だけど、そうじゃないかもしれない。」
「マナ、あんたは民を守る者って言ってたな。俺は帝国軍と戦っている時に奴らから聞いた。五つの封印の塔を維持するには人柱が必要だと。」
マナは渓谷地帯の遠くを見渡す。
「そうです。私は今まで塔の維持の為、連合封印騎士団に弾圧され、虐げられている人々をたくさん見てきました。塔の封印制度こそ、人の命を代償とする世界を平和な世界と言えますか?」
「それは…」
アインは言葉が詰まった。
知らぬとは言え、自分の所属していた騎士団にそんな裏があったとは。
「封印騎士団が守ろうとしているのは、世界ではなく己の利権だけ。」
「君はまだ真実を知らない、神水の塔の近くに村があります。まずはそこに向かいましょう見せたいものがあります」
続