コーヒーを一口すするたび、何故だか悲涙が溢れる。 今日はオヤジの告別式だ。 オヤジはコーヒーが大好きだった。
オフクロは俺が生まれて間もなく死んでしまった。だからオヤジは男手ひとつで俺を育ててくれたわけだ。
俺には美智子という妻がいる。彼女のお腹には新たな命が宿っている。
俺は怖かったんだ。父親になるということの責任の重さに。俺は弱音を吐いた。するとオヤジは俺の顔を強くぶん殴った。
「バカヤロー!お前はこれから子供を幸せにしてやる義務があるんだ!何弱音吐いてんだ!」
オヤジの拳はとても痛かった。
オヤジの夢は親子三代でこのオヤジが好きな縁側でコーヒーを飲みながら語ることだった。だがその夢も果たせなかった。
声を噛み殺しながら泣いてる俺の手を、優しく両手を握り締め、俺を引き寄せてオヤジの耳元に自分のお腹をあてた。
トクットクッと波打つ音が聞こえた。そして温もりを感じた。
すまんな。こんな情けない俺で。
俺はもう一度コーヒーをすすった。
コーヒーの香ばしさと苦味が口いっぱいに広がった。 俺は最近になってようやくコーヒー本来のおいしさがわかり始めたばっかりだ。俺はそれまでまだ大人になれてなかったということなのだろう。
ようやくこの苦味の中のうまさに気づけるようになったんだ。
オヤジ。一緒にコーヒー飲みたかったなあ。
コーヒーが教えてくれたもの。それは家族の大切さそのものだった。