そう言って目で訴えた。ところが、返ってきた言葉は、ちょっと違っていた。
「畑中くんがね…練習に来てくれりゃーいいだけんが…。」
もろに静岡方言丸出しの岩田さんは、私と同じ亥年のひとまわり上。そう、彼が心配していたのは、幽霊会員の畑中さん。市内の公立中学校の先生をしていて、忙しいせいか、練習に出てこない。しかし、岩田さんに言わせると、彼はこの会にいる目的が違うらしい。メンバーときゃぴきゃぴ遊んだり、飲み会するのが目的なんだそうである。そんな人に楽器を任せても仕方ないし…とこう言うのである。平たく言えば、岩田さんは畑中さんをあまり信用していない。
これは重要な問題である。メンバー同士の信頼関係が確立されていなかったら、アンサンブルに支障が出る。これはどこの音楽界でも同じ!
「5人で出れればいいだけんが…。」
岩田さんはこうつぶやいていた。人数よりも、畑中さんとの信頼関係を回復することに重点を置いてほしい。
しかし、私にはそんな力はない。
畑中さんが練習に来ていないのは事実だし、またどんな事情があって来ていないのか、なんて私にはわからないから、強制的に練習に来させる訳にもいかない。畑中さんが毎週練習に来るようにならなければ、岩田さんは信じようとしないのだから。
多くの問題を残したが、結果的には、期待のできる返事をもらった。
「5人でできる曲を探してみるよ。」
「はい、ありがとうございます。」
嬉しい…。岩田さんは頼りになるよ。