「はぁ、折角の日曜が…。
出勤までに腫れが引けばいいけどな…」
昨夜は同僚の剣崎とハデな立ち回りをしたお陰で、僕の顔面はかなり悲惨な状態なのである。
心配性の大沢千尋に知られようものなら一悶着は避けられない為、その日は自宅で過ごす事にした。
しかし、世の中思いがけない事が起こる。
“ピンポ〜ン…”
「誰だ?こんな朝っぱらから…」
“カチャッ”
ぼやく間にロックが解除され、ドアの隙間から人なつこい笑顔を覗かせたのは、誰あろう大沢千尋であった。
「あのね、…静先生から話聞いて驚いちゃった、ホントに」
「で、…お抱え看護士の出番て訳か?」
「うふふっ、しみるけど動かないでね」
現役ナースの千尋が手際よく手当てしてくれるのに任せ、僕は先ほど耳にした話を寝不足の頭で考えていた。
「ハイ! 後は炎症が治まれば大丈夫よ。
でも、慎二が静先生を助けたなんてさぁ…。 全く、美人って得よね〜」
「そう、…かもな」
どうやら葛城静は、「酔客にしつこく絡まれていた所を僕に助けられた」という尤らしい話をデッチあげ、千尋を差し向けたようだ。
それはともかく、きちんと消毒を受け、痛みも和らいだ途端に猛烈な眠気がやってきた。
毛布を掛けられる感触を覚えながら、僕は深い眠りに落ちた。
…さん信吉さん、…
『お静か?こっち来いや』
…思い出して…くれた
のね……
『ハッ、…僕は今何て…』
突如、堰を切ったように膨大な量の音と映像がなだれ込んできた。
強烈なフラッシュバックの嵐にさらされ、数百年分の〈生の記憶〉がパッパッと絶え間なく脳裏に映し出される。
僕はたった今、一切合財を「思い出して」いる。
愛憎、歓喜、絶望、恐怖…
それらの全てが物理的な圧力を伴って心臓を締めつける。
僕は苦痛に耐えかね、悲鳴をあげていた。