「東メドラ通り…ここだな」俺はまるで悪党が逃げ隠れるためにあるかのような細い路地に足を踏み入れた。
「おっと、待ちな兄さん」背の高い巨漢とそいつを取り囲む危なそうな奴らが俺に立ちはばかる。
やはりそうだ。メドラ街−人を拒むスラム街。通称悪魔のはびこる街。
髪をピンク色に染め上げ、鶏の鶏冠のように逆立たせた鼻ピアス男が俺に詰め寄る。
「なぁ兄さんよぉ。痛いめみたくなかったら、金目のモンおいていってくんねぇかなぁ?」
鼓膜を刃物で傷つけてくるような甲高い耳障りの声。俺は仕事前にむしょうに腹立たしさを感じた。こういうならず者をみると俺の神経が許しを認めない。
「10秒以内に消えろ。さもないと貴様の鶏冠スタイルを揚げた鳥肉にこびりついた毛にしてやる」
水を打ったような静寂。おそらくこいつらに抵抗してきた者が今までいなかったのだろう。しかしこの街に似合う静けさも長続きはしなかった。
「ひゃはっー!おいお前等聞いたか聞いたか?鳥の唐揚げだってよっ!」
満月のように見開かれた小さな目はすぐに欠け始め、三日月形になった。俺を嘲笑えるのも今のうちだぞ下朗が。
「10秒を笑い転げるのに使っちまったな。哀れな」
「死んじまいな兄さん」
目の前に突然針のついたメリケンサックが現れた。
雑魚が…
俺はその腕を素早く掴み、向かってきた方向と全く反対の方向に−逆ベクトルにその腕をねじ曲げた。
折り曲げられたことすら気付けない小手先についた装着ニードルはその持ち主の胸を貫く−
「…あ?」
パンク風のチキン野郎は膝を地につけ、俺にその身を差し出した。