そこに。

マチコ  2006-01-10投稿
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「ああ。この道兄貴と歩いたなぁ。」
―兄貴。3つ年上。父のいない私にとって兄であると同時に、父でいてくれた大きな存在。でも死んだ。10日前。あっけない、交通事故だった。1週間何も出来なかった。腑抜けのような生活で、4キロ痩せた。
でも。断ち切らなくては。兄貴もそんな私を喜ばないだろう。時折兄貴の夢を見る。何度か兄貴の姿を見た。断ち切らなくては。惑わされてはいけない。
家の鍵を開ける。誰だろう、知らない靴。―ああ。早紀ちゃんだ。兄貴の彼女。お線香上げに来てくれたのかな。大切な人を失った者同士、慰め合いたかった。
―どこにいるんだろう。あれ以来、音の消えた家。やけに広い。早紀ちゃんは―兄貴の部屋にいた。
「早紀ちゃん…。」
何と声を掛けていいのか分からずに詰まってしまう。
「あ、恵美さん。どうしたんですか。」
―早紀ちゃんは―…笑っている。何かおかしい。
「…お線香上げに来てくれたの?」
早紀ちゃんの顔が戸惑う。
「え?何言ってるんですか。ねえ智也。」
智也。…兄貴。
早紀ちゃんは―…ベッドに微笑み掛けていた。
兄貴。兄貴。―そこにいるの?私は―断ち切らなければ―私は。



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