月に叢雲、花に風?

グリーン  2006-01-10投稿
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 春の夜風はまだ冷たく、この高台にふきつけてくる。幸は、今日にかぎって手袋を持ってこなかったことを後悔していた。凄く寒いとは言えないが、まだ肌寒いこの季節、バイクに乗ればその寒さは倍増され、手袋のない手は、たちまち冷えきってしまうのだ。   そんな事を考えているうちに、20分が経ち暗幕が空を、覆う。幸以外誰一人もいないこの場所で、寒さを忘れ幸は、なにかを待っていた。          それは、この何も変わらない毎日の中で、幸にとっての唯一の希望だった。  高台までの坂を昇る足音。まもなく彼女が現れた。「はあ、はあ」      息をきらしながら走ってくる少女。黒いニット帽を、顔を隠すように深く被りそのニットから見える長く綺麗な栗色の髪をちらつかせていた。肌は白くこの暗やみに栄えていた。    僕は、彼女の名前を知らない。それは、彼女にも言えることだ。僕と彼女には一切面識はないのであった。            そして、彼女にはもう一つの魅力があった。それは彼女が時より夜景に向かって口ずさむ歌だった。その歌を初めて聞いた時僕は、驚いた。なにもかも包んでくれる優しい歌声に僕は、虜になった。       今夜も、彼女は歌いだした。それを体で受けとめるように僕は周りの景色に同化する。ただ今日にかぎって邪魔がはいったのだ…。 『ブー、ブー、ブー』  携帯のバイブの音が鳴り響く。その場の空気を、読まない機械音は僕の制止も虚しく、鳴り続いた。               幸福の的を、終わりを知らすかのように。

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