「ジャム!ジャム!!」
威勢のいい声が路地裏に木霊する。ジャムという名前に反応したごく普通の少年は、けだるげに息を吐いた。またいつもの、強盗事件でも起きたのだろう。
「なンだよ」ぶっきらぼうな言い方にならないよう気をつけたつもりだったが、逆に嫌味な感じになってしまった。
「た、大変なんだよッ!あ、あの死神が…この街にいるんだよぉオ!」そう騒ぐ同い年の少年を、ジャムは鼻でハンと笑う。「シニガミ〜?ばっか。ンなもの存在しないっつの」ジャムはまた眠る体勢に入る。しかし、ジャムは、思い出した。
「お前…!死神ってヤクシマのか!」相手はただただうなずく。ジャムはそばにある薄手の上着を素早く着込むと、手帳を取り出す。「ン。オッケー。お得意さん今日はアジトに引きこもってら。ライアン呼んでこい。仕事行くぞ」そうテキパキと行動するジャムにつられて周りも動き出す。
「今回のは高値がつきそうだ」ストリートチルドレンでジャムながら情報を売買する彼は、ニヤリと笑ってから仕事に向かった。
ジャムは大通りを通らない。人ごみの中を歩くよりも、裏道の細い場所を通る方が遥かに時間の節約ができることを知っているからだ。
不意に、人の悲鳴が大通りから聞こえた。悠々と大男のライアンを連れ歩いていたジャムは、立ち止まる。ここは銀行の裏側に通じる道だ。よくそこから社員が出入りしているのを見かける。―――ジャムは身の危険を察知し、きびすを返して一つ前の曲がり角を目指す。
「強盗か?」ライアンがボソリと言う。「あぁ。こっちに人が流れ込んでくる心配もあるな。それに、強盗犯が裏道に逃げ込みでもしたら―――」危険だ、とジャムは言いたかった。けれども、言う必要がなくなった。目の前に覆面を被った男が飛び出してきたのだ。
小脇にスーツケースを抱えている。通りからはまだ銃声が聞こえているということは、仲間がいるようだ。
「死にたくなかったら手をあげろ!」男の手にはおもちゃのような拳銃が握られている。ジャムとライアンは視線を交わした。ハッタリかもしれない。
「は・や・く!!!」
間違いなく拳銃が空へむかって火をふいた。ジャムはライアンに意味ありげに目配せしてから両手を挙げた。