…冷たい指が君の首に絡みつく。
そんなことにも気付かずに、僕のベッドの上で、安心しきって無防備に眠る君…。
指に少し負荷を掛ければ、簡単に折れてしまいそうな細い首筋を月明かりに晒して、何も知らずに眠り続けている…。
「無防備すぎるよ…。僕の本当の姿を知ったら…君はどんな顔をするだろう…?」
そう呟きながら、僕は絡ませた指先に少しずつ力を込めていく。
力が強まるにしたがって、君の美しい顔が、少しずつ歪んでいく。だけど、君の黒い瞳が僕を…僕の本性をとらえる前に、僕は君の首筋から指を離した。
そして深い溜め息をついた。「春奈…。君が僕を狂わせるんだ…。君の存在が…。」
…──そもそも、僕のベッドを占領して昏々と眠る彼女…徳永 春奈と、僕…嘉神 静流は、小学校の頃からの幼馴染みで、いつも一緒に遊んでいたし、互いの家にもよく出入りしていた。しかも家が向かい同士だからか、高校2年になった今でも、互いの家に出入りしている。
お互い、気兼なく付き合える良い友達として、10年近く過ごしてきた。
だけどそれは僕にとっては表面上のこと。実際は…僕は彼女を『友達』と思ったことなんて、出会ってから一度もなかった。
そう…僕にとって彼女はいつでも『恋愛対象としての女』でしかなかったんだ。彼女が向かいの家に引っ越して来て、初めて彼女の姿を見たときの、あの気持ちの高ぶり…。僕は今でも鮮明に覚えている。まだ小学生だったけど、あの甘い胸の疼きは、小さい僕にも恋を自覚させた。
それ以来の10年間…僕は自分の気持ちを必死に隠して、彼女に接してきた。もしこの気持ちを打ち明けたら、もう絶対に元の関係には戻れないから…。