「あっあのすいません!」 ペコっと頭を下げる彼女。突然の展開で驚き、“今”を把握するのに少し時間がかかった。 一刻…。それがこれを把握するのにかかった時間だ。彼女は僕に話しかけていた。 「あの…、いつもいますよね?」 「あっ…はい。」 あまりにも混乱した僕の頭は無意識に、そっけない返事をしていた。 「あっ私、月乃です…。」 そこで知った彼女の名前。それを知ると、僕は急に緊張しはじめた。心臓の鼓動が高鳴りはじめる。 「俺は、幸。」 僕の口から出たのは、またもそっけない言葉だった。 「幸君って言うんですか?よろしくです!」 満面の笑みを浮かべる彼女の顔を見たとたん、僕は体が熱くなるのを感じていた。こんな気持ちは初めてだったのだ。 「幸君もここが好きなんですか?」 そんな僕をよそ目に彼女は、僕に質問してくる。 「…いつもですかね。ここの景色が好きでッ」 月乃さんを、見たくてなど当然言えるわけもなかった。 「私も…。ここに来るとなんか嫌なこて忘れられるんですよ。」 高台の突端の手摺りに体を預け、そう呟く彼女。 近くでみると以外と背が高かった。僕が181センチに対して彼女は、僕の顎ぐらい…ざっと170センチぐらいであろう。女子の中では多きい方の唯よりも大きいはずだ。 それから20分ぐらい。僕達はたわいのない話をしていた。大半がここの事や僕のバイクのことなどだった。話していくにつれ、解れていく緊張感。なんだかとても幸せな気持ちになっていた。こんな時間が永遠に続けばいいのにと…。 彼女は被っていたニット帽をとった。多分、歳は近く整った顔立ちで透き通った目、長い髪が夜風てなびく。 ふと彼女は、ちょっと困った顔で僕の顔を覗きこんできた。 「僕の顔になんかついてます?」 「えっ?な、なんでもないです!私時間なんで帰りますね?今日は、楽しかった!また逢えるといいですねっ」 そう、別れ突然だった。彼女は、ニット帽を被り直し風のように去っていったのだ。 まだ寒い春の夜。