ジェスターが居ました。
ジェスターはつい先月十歳になったばかりの男の子です。
ママと、パパと、一匹の白い犬と、小さな丘の先にある可愛らしいお家に住んで居ました。
ジェスターは、近くにある小学校に通って居ます。
お家が近いので、お昼時間になるとジェスターはお家に帰ってママの作ったランチを食べます。
今日も、ジェスターは大きなカバンをぶら下げ、お家に帰って来ました。
「ママ?お腹空いたぁ。お昼食べにきたよ!」
ドアを開けてジェスターがママを呼ぼうとしました。けれど、リビングから大きな声が聞こえたので、びっくりして、その瞳をクリクリさせました。
「何よ!アンタ何か働きもしないくせに!アタシが何しようがアタシの勝手でしょ!?」
「うるせぇ!このアバズレが!お前こそ料理も家事も出来ないくせに、散財だけはしっかりしやがって!その上浮気だとぉ!?ふざけるな!!」
「言い掛かりつけないでよ!浮気何かしてないわ!最低な男!アンタ何か死ねば良いのよ!」
「…………ママ?」
リビングで向かい合って怒鳴って居るママに、ジェスターは恐る恐る声をかけました。するとママはハッとして、すぐに笑顔になりました。パパは、バツが悪そうな顔をしていました。
「ごめんねジェスター。ランチならもう出来てるわよ」
ママの言葉にジェスターは頷いて、キッチンに向かいました。ママはパパにも声をかけました。
「アナタの分も作ったからアナタも食べてよ。不味くても、ジェスターは文句も言わず食べてくれるわ」
ママは鼻を鳴らしました。
今日のランチはオートミールでした。ジェスターがスプーンをクルクルしていると、足に白い犬が寄って来ました。
「きみも食べるかい?ポッキー」
ジェスターはにっこり笑って、ポッキーにオートミールを差し出しました。
パパが死んだのは、それからすぐの事でした。ママも泣いて、ジェスターも泣いて居ました。それからです。ママがお洒落をして出掛けるようになったのは。
ジェスターは死んだポッキーを見つめながら、それを見送りました。
「ママぁ!」
日曜日の昼下がり、ジェスターは嬉しそうにママに駆け寄りました。ママが今日はお家に居るからです。
「なぁに、ジェスター?」
ママがにっこり笑ってジェスターを振り向きました。ジェスターはサンドイッチを差し出しました。
「きょーはぼくがママのためにランチを作ったの!」