まぁ、と言って、ママは嬉しそうにジェスターが持っている皿からサンドイッチをひと切れ口に含みました。
「それからぼくね、うれしいことがあったの!」
久しぶりにママが居る事で、ジェスターはにこにこと話し続けます。
「何かしら?何かあったの?」
ママもにこにこしながら、サンドイッチを頬張ります。
「ぼくね、頭が良いから、大学院にすすみなさいって言われたの!」
「………大学院?」
ママは顔をしかめました。そんな話は、ジェスターの先生から聞いて居なかったのです。
「うん!ぼく、特別に頭が良いんだって!難しい本だって読めるよ!」
ほら!とジェスターが差し出した本を見て、ママの顔はサァッと青ざめました。
「これ、ママが浮気相手の所に行ってる間に読んでたの!すごいね!食事に洗剤を混ぜるだけで、人が殺せるなんて思わなかったなぁ」
ジェスターは表情を変えず、にこにこと言葉を続けます。ママは、そんなジェスターを震えながら見つめるしか出来ませんでした。
「ぼく、朝ごはんは食べないし、お昼は学校で食べたいって言ったよね?でも夕ごはんはずっとポッキーにあげてたんだぁ。でもパパは違うよね?ずっと家に居たから、ずっとママの料理を食べてたんだよね?」
ガターン!と、人が倒れる大きな音がなりました。
「ママが浮気相手と結婚するには、ぼくとパパが邪魔だったんでしょ?でももうぼくの代わりにごはんを食べてくれるポッキーは死んじゃった。だから、仕方ないよね」
ジェスターは床でただ目を見開いただけのママを見つめて居ました。
「僕が十歳だから、安心してたでしょ。でもみんなそう思ってくれるだろうから、別に良いんだけど。僕はママと違って、勘付かれることも無く、ちゃんと致死量を入れてあげたからね。………もう聞こえてないと思うけど」
ジェスターは残りのサンドイッチをゴミ箱に捨てると、両親を亡くした可哀想な子供になるために、電話を掛けに行きました。
そしてもう一度ママの方を振り向きました。
「僕は洗剤が入ってるママのランチなんて、大嫌いだったよ」
濁ったママの瞳は、何も映して居ませんでした。