「菜由美ちゃん、久しぶり。」
おっと美加だ。美加は本番には出なかったので、確かに久しぶりだ。
「ティンパニ、出すの?」
「わからない。一応、3台くらい出すかな、と思って。」
「そうだね。」
美加はあとから私の手伝いをしてくれた。あとの打楽器メンツはまだ来ない。富山くん、君だよ、君。下っ端なんだから、早く来いっ。(下っ端扱い)
「菜由美ちゃん、彼氏できた?」
「できないよ、なんで?」
美加はティンパニを運びながら、唐突にこんな質問をしてきた。失礼なやつだ。
「菜由美ちゃん、このバンド入って彼氏作るとか言ってたじゃん。」
言ってないっ、いつ言ったんだ、そんなコト!私はそんな不純な動機では音楽はやらないぞ。
願わくば…って思ってるだけだ。それが大きな目的じゃない。
それに女の子の多いバンドだし。
「でも、好きな人、いるんじゃないのぉ?」
おっと、美加得意のつっこみが始まった。
「え?曽根さん、好きな人いるんですか?」
わっ、誰だっ!いきなり会話に加わってるやつはっ!富山っ!てめーか。
とたんに、美加と富山くんが味方同士になってしまって、私を攻める。ホールに戻って、譜面台やら、その他スタンド類のセッティングをしながら、さらなるつっこみが入る。
美加ならいいけど、富山くん、君には進一さんのことは話さないぞ!
私はごまかしつづけていたが、そのうち岩田さんまで来ちゃって、大混乱してしまった。私は根が正直なので顔に出てしまうらしい。もう、このバンドに好きな人がいるっていうところあたりは、バレてしまった。
「いいよなぁ、若いっていうのは。」
ひとまわり上の岩田さんは、そんな冷やかしをしている。まぁ、彼にとっては純粋にそう感じているのだろうけれど、25歳の私には、イヤミにしか聞こえない。