『そうですか…』 エタンは、余計な反駁は一切加えず、スコットの見解を受け入れた。 それだけ、この大本営次長を、そして統合宇宙軍を、信じている。 皇帝はすかさず、パネルカ―ドを手渡した。 スコットの操作によって、一気に部屋の照明が落ち、デスクの背景一面が、スクリ―ンと化して、複数に色分けされた電光で、鮮やかに戦況図やデータを一杯に、埋め尽した。 椅子を回転させて、体をそちらに向けるエタンの背中に、寄り添うように立ちながら、スコットは、詳細を説明した。 『特に、星系合衆国軍が持って来た、回宙式・軍需工廠群が、フル稼働してしまいますと、無尽蔵の供給の下、敵機動部隊の防御砲火は、格段に熾烈な物となりましょう。 その段階で既に、我が方の勝算と生存率は、半減してしまいます』 『そうなるまでの、日数は?』 『効率な供給態勢の構築を含めて、最短で三0日』 大本営次長は、統合宇宙軍主力の集結している、ここシルミウム星系から、パレオス星邦方面一帯にかけてを、戦況図から選び出して、クローズアップした。 『連合艦隊は、パレオス星系・第四惑星軌道から、こちら側へ、征宙域の漸次拡大を図りつつ、太陽風臨界ポイントを最前衛として、哨戒及び防衛網を、組織する手筈と、考えられます』 スコットの分析に合わせて、更に拡大されたパレオス星系が、赤・青・黄・緑とそれぞれの光を放つ、点や線やいびつな図形や帯によって、埋め尽される様に飾られた。 この20日以上に渡って、収集された、偵察部隊群と、情報幕僚達の、血と汗と涙の結晶だった。 『小惑星帯を基本ラインとして、最低三重の備えを固めるのは、ほぼ確実で、これに更に、外郭として、早期対応帯を設定して、我が侵攻軍の捕捉と、妨害・要撃等対応の迅速化を図るつもりと、予測されます』 『彼等は何がしたいんですか』 その戦術内容の余りの怪奇さに、エタンは思わず本意を口にしてしまった。 それは、皇帝の想像と覚悟を、容易に踏みにじるに充分な衝撃に満ちていた。