「ウウッ、や、止めろ!心臓が、……」
「慎司!ねえ、どうしたのよ?ねえったらァ」
僕は大沢千尋に強く揺り動かされ、ようやく苛烈なフィードバックの悪夢から解放された。
脂汗にまみれた僕を、切れ長の瞳が気遣わしげに覗き込んでいる。
「救急車呼ぶよ?
心臓が苦しいってうわごとで言ってたけど、身内に狭心症とか心疾の人いる?」
「いや、…いない筈だ。
もう、…大丈夫だと思う」
「あの、…悪い事言わないからすぐに精密検査受けてちょうだい?」
「大沢くん。 例の彼だが、ふうむ…、心機能、循環器系等すべて異常なしだ。
最近、強いストレスを経験したとか心理的要因が発作の原因ではないかな?」
「そうですか…。お休みの所すみませんでした」
検査の為、出勤してくれた医師や検査技師に詫びたあと、千尋は青木慎司の元へと急いだ。
(彼、…何か隠してる)
千々に乱れる胸のうちを抱えたまま、千尋は笑顔でベッドに歩み寄る。
「幾分、顔色良くなったみたいね?」
「迷惑かけ通しだな…。
いつか必ず事情を話すよ」
「今話してよ、包み隠さず全部。
あの変な夢を見てからおかしくなったわね?
『思い出した』ってしきりに言ってたけど一体何のこと?」
「話せば、…君は僕から離れていくかも知れない。
それでも…聞きたいか?」
「え、……」
一瞬息を呑んだ千尋。
やがて、青ざめながらも慎司の目を正面から見据え、ゆっくりと頷いた。
「そんな、…誤魔化さないで!人魚なんてお伽話じゃないの!
転生ですって…?
ね、…本当の事言って。
静先生と浮気してるんでしょう?どうなの?ねえ!」
「いや、実際に会ったのは昨日が初めてさ」
「嘘……そんなの嘘よ!」
確かに、余りにも荒唐無稽な話であった。
千尋は納得せず、「現実味ある回答」を要求し続けている。
慎司は途方に暮れた。